家族信託(民事信託)を活用したケースその5:自社株を後継者へ贈与したいが、議決権は引続き保有したい
Aさんは、高齢ですが、中小企業を経営しており、現在は業績が赤字であるため、自身が保有する自社株の評価額はとても低くなっています。ただ、商品開発の成功により、将来的には業績回復が見込まれています。
そのため、後継者である息子のBさんに株式を今のうちに贈与することを検討しています。
しかし、息子Bさんは経営者としてはまだまだ修行が必要なため、当面は株式の議決権はAさん自身で保有し、会社を経営していきたいと考えています。
このような場合に、相続税対策のために株式は後継者に贈与して、議決権は引続き自分が保有するということは可能なのでしょうか。
民事信託を活用した解決例
このような場合、信託を活用することで、自社株の相続税対策をしながら議決権をAさんのもとに残すことが可能です。
まず、Aさんの財産である自社株をAさん自身に信託します。(イメージしづらいかもしれませんが、こういった「自己信託」も可能です)
この場合、議決権は株式を信託された人に属するので、Aさん自身が議決権を保有し続けます。
一方で、受益者(預けられた財産から得られる利益を受け取る人)を息子のBさんに設定します。
そうすることで、自社株の経済的価値はBさんへと移ります。
信託の場合は受益者であるBさんに自社株が贈与されたと見なされ、贈与税がかかることになります。また、贈与税や相続税課税にあたって、中小企業のような上場していない会社の株価を評価する場合、国税庁が作成している「財産評価基本通達」の「取引相場のない株式等の評価」に基づいて評価することになります。
このように、信託を活用することで議決権と株式の経済的価値を分離し、議決権を保有したまま相続税対策として贈与をすることが可能なのです。
なお、この方法では贈与税の負担が大きくなる場合には、受益者をAさんとする信託で解決する方法もとれます。
この記事を担当した執筆者

福島いなほ法律事務所
佐藤 初美
- 保有資格
- 弁護士・家族信託専門士・ファイナンシャルプランナー(AFP)・介護職員初任者研修修了
- 専門分野
- 債務整理・相続・遺言・家族信託・成年後見・その他
- 経歴